More

マルベリーのマニフェスト

ブランド創立50周年を迎えるマルベリーの歴史は、1971年に創業者のロジャー・ソウルが台所のテーブルを作業場と し、革の切れ端やスクラップレザーを使ってレザー小物を制作したことからスタートしました。以来、英国の伝統と 革新的なアイデアを融合させたスタイルで成長を続け、独自の地位を築いてきました。マルベリーは、アーティストや デザイナー、ミュージシャンなどが活動家として注目を集めた70年代初期の熱狂の中で誕生したブランドです。マル ベリー創業の年、伝説的なソウルシンガーとして知られるマーヴィン・ゲイが楽曲『マーシー・マーシー・ミー』の中で、 「この過密した大地はどうなるんだ?地球はあとどれくらい、人間からの虐待に耐えられるだ?」と未来を予言する ように歌っていました。それから半世紀が過ぎた今、私たちはここから何かを学んだと言えるでしょうか? より良い社 会を目指して、長く愛用できる製品づくりを行うビジネスを築くことができたでしょうか?

現実は、マルベリーが参加する複数のイニシアチブを含め業界でさまざまな 取り組みが行われているにもかかわらず、ファッション・繊維産業は未だに 世界の温室効果ガス排出量の10%を占めており、変化のスピードは十分と は言えません。 今こそ、原料の調達から製品としてお客様の手元に届くま でのサプライチェーン全過程において、再生型・循環型ビジネスモデルへの 移行に真剣に取り組むときが来たと、マルベリーは考えています。これを実 現するには、自らに厳しい問いを突きつけ、たとえすべての問いの答えが見 つからなかったとしても、誠心誠意答える努力をしなければいけません。

レザーはサステナブルな素材となり得るのか?

世界資源研究所の報告によると、2001年から2015年の期間、世界の森林 破壊の36%は牛の牧畜が原因となっており、種の絶滅や気候変動に大きな 影響を及ぼしているとしています。これは確かにショッキングなデータです が、問題は牛そのものではなく、牧畜のやり方にあるとマルベリーは考え ます。循環再生型農業や輪換放牧を取り入れることで、家畜が土壌改善に 重要な役割を果たすだけでなく、健全な土壌を維持することにより、土壌 が大気中から二酸化炭素を吸収し、貯蔵するという働きも期待できます。 有機農業や循環再生型農業に関する研究のパイオニアであるロデール研 究所は、「あらゆる農法の中でも、放牧による畜産が二酸化炭素の隔離に は最も効果的である」と述べています。

この50年間の歴史の中で、レザーはマルベリーにとって最大の課題であり、 最大の強みでもあったということは言うまでもありません。だからこそマル ベリーでは、業界を先駆ける存在として、原料の調達から最終製品に至る 全過程において透明性の高い、ハイパーローカルなサプライチェーンを構築 するとともに、土壌の改善や生物多様性の保全に積極的に取り組む、先進 的な農場経営者とのネットワークの構築に尽力しています。レザーの調達に 対するマルベリーの画期的なアプローチは、リサイクルのナイロン素材やリ ジェネラティブ・オーガニックコットンの採用、梱包材や実店舗における環境 への負荷軽減を目指した継続的改善努力など、ビジネスのあらゆる面に新 たなソリューションを次々と導入する当社の企業姿勢を反映したものです。

青いバッグも「グリーン」なバッグに なり得るのか?

マルベリーでは当ブランドのバッグやビジネスを根本から変える努力をし ています。マルベリーはこれまでも常に、地域に密着したブランドとして地 域と共に歩み、創業当初から今日に至るまで、当社の製品の半分以上を英 国サマセットの工場で製造を行っています。現在、サマセット州の2つの自 社工場は共にカーボンニュートラルを達成し、工場で働く全従業員に十分 な生活賃金が支払われています。しかし、こうした成果を達成した一方で、 抜本的な変化を起こすにはまだまだ努力が必要であることを認識してい ます。そこでマルベリーでは、業界をリードするタンナリーとパートナーシ ップを組み、環境保護に積極的な農場主から原料を調達して、二酸化炭素 排出量を世界最小に抑えたレザーを開発すると同時に、サプライチェーン 内のすべての労働者が生活賃金を保証されるようサプライヤーに働きかけ ています。こうした取り組みを通して、マルベリーでは、原料の調達から最 終製品に至るまで、ローカル・サプライチェーンを実現したバッグを2021年 にリリースする予定です。このコレクションはマルベリーのビジネスの未来 を切り拓くものであり、これを模範としながら、信頼できるパートナーの間 でこうしたビジネスモデルを広げると同時に、その先の未来に向けて、次の 50年の基礎を築くことが期待されます。

誰が新しいバッグを必要としているのか?

答えにくい質問ですが、実際のところ世界には十分な数のバッグがあり、交 換や再販を通して、何世代にもわたって使い続けることが可能だと言える でしょう。だからこそ、マルベリーが作る新しいバッグは、今の社会に即し た、プラスの影響を持つものでなければならないと考えます。また、マルベ リーの責任は、お客様が商品をお買い上げになって店舗を出られた後も続 きます。実際には、そこから本来の仕事がスタートするのです。マルベリー で50年前に作られたバッグは今も現役で活躍しており、現在新しくデザイ ンされたバッグも同様に、これからの50年間、人々に愛され続けることで しょう。英国サマセット州にある自社工場、The Rookeryでは修理専門チ ームを備え、バッグを美しく復元する技を備えた熟練の職人たちが、年間 10,000を超えるバッグの修理・修繕を行っています。

古くなったバッグを再び活かすことはできるのか?

マルベリーでは、ご購入いただいたバッグを生涯にわたってご愛用いただ き、次の世代へと受け継がれることを願うと同時に、交換や再販といった サービスを多くの人にご利用いただきたいと考え、「マルベリー・エクスチェ ンジ」のプログラムを立ち上げました。実店舗やオンラインでご利用いた だけるこのプログラムは、プロの鑑定を受けた後に美しく蘇ったヴィンテ ージのバッグを新たなお客様に提供するサービスで、古くなったバッグに 新たな命を吹き込むことができます。また、使い込まれて寿命を迎えたバ ッグも、マルベリーでは残さず買い取りをいたします。こうしたバッグは、当 社の戦略的パートナーである、グラスゴーのムーアヘッド・タンナリーが開発 した革新的なエネルギー再生システムを利用して、無駄に破棄されること なく、新たなバッグの生産に役立つ資源として活用されます。

バッグで世界を救えるのか?

真の変化を起こす錬金術は、難しい質問を自らに問いかけ、有意義な回答 を引き出そうとする努力から生まれます。マルベリーのバッグは再生、更 新、再考へとつながる未来を示すことができるのでしょうか?マルベリーで はそう信じていますが、これが実現すれば、バッグがより良い社会を作る ための一助となるはずです。マルベリーでは、これこそが明るい未来を照ら す希望の光であると信じ、真摯な努力を続けていきたいと考えます。なぜ なら、マーヴィン・ゲイが歌ったように、 「そうさ、解決策を見つけなきゃいけないんだ」。